TPMとは、生産部門・保全部門・設計部門・管理部門が全員参加で、「ゼロ故障・ゼロ欠点・ゼロ災害」を目標に設備の効率を最大化する経営活動です。Total Productive Maintenance(全員参加の生産保全)の略称で、JIPM(公益社団法人 日本プラントメンテナンス協会)が提唱・普及させた手法です。設備の故障や不良を「未然に防ぐ」仕組みを全社で構築し、OEE(設備総合効率)の継続的な改善を目指します。本記事ではTPMの定義・8本柱・12ステップ・中小製造業での実践方法を解説します。
1. TPMの目的と3つの「ゼロ」
TPMは、設備損失をなくすための「3ゼロ」を基本目標として掲げます。
| 目標 | 意味 | 主な損失 |
|---|---|---|
| ゼロ故障 | 設備の突発停止・慢性停止をなくす | 停止ロス・段取り調整ロス・空転・チョコ停ロス |
| ゼロ欠点 | 設備起因の品質不良・手直しをなくす | 不良・修正ロス・初期収率ロス |
| ゼロ災害 | 設備に起因する労働災害・環境汚染をなくす | 設備起因の怪我・化学物質漏洩・爆発リスク |
2. TPMの8本柱
TPMは、設備ロスをゼロにするための8本の活動(8本柱)を体系的に推進します。
| # | 柱 | 主な活動 | 主な担当部門 |
|---|---|---|---|
| ① | 自主保全 | オペレーターが設備の清掃・給油・増締め・日常点検を行い、「自分の設備は自分で守る」体制を確立する | 生産部門 |
| ② | 計画保全 | 保全専門部門が設備の定期点検・分解整備・予知保全を計画的に実施し、突発停止ゼロを達成する | 保全部門 |
| ③ | 個別改善 | 設備の16大ロス(停止・スピード・不良等)を個別に分析し、OEEを継続的に改善する | 生産・保全・技術部門 |
| ④ | 教育・訓練 | オペレーターの設備知識と保全員の技能を体系的に教育し、「設備に強い人材」を育成する | 全部門 |
| ⑤ | 初期管理 | 新設備の設計・調達段階から保全しやすさを組み込み(MP活動)、立上げ期間と初期トラブルを最小化する | 設計・技術・保全部門 |
| ⑥ | 品質保全 | 不良ゼロを目指し、不良を発生させない設備・工程の条件を管理する(品質条件の保全活動) | 品質・生産部門 |
| ⑦ | 安全・衛生・環境管理 | 設備に起因する労働災害・環境リスクをゼロにする活動を推進する | 安全・環境部門 |
| ⑧ | 事務・管理部門のTPM | 間接部門も生産効率・業務効率の改善活動に参加し、事務ロスをなくす | 管理・経営企画部門 |
3. TPM導入の12ステップ
JIPMが提唱するTPM導入は、「準備フェーズ(1〜3)」「基盤構築フェーズ(4〜7)」「本格実施フェーズ(8〜11)」「定着フェーズ(12)」の4段階・12ステップで進めます。
| フェーズ | ステップ | 活動内容 |
|---|---|---|
| 準備フェーズ | Step 1:TPM導入の宣言 | 経営トップがTPM導入を宣言し、全社に展開方針を示す |
| Step 2:TPM推進教育 | 管理者・監督者を対象にTPMの考え方と活動内容を教育する | |
| Step 3:TPM推進組織の整備 | TPM推進委員会・事務局・小集団活動の体制を整備する | |
| 基盤構築フェーズ | Step 4:基本方針と目標の設定 | OEE・突発停止件数・保全コスト等の目標値とマスタープランを策定する |
| Step 5:マスタープランの策定 | 個別改善・自主保全・計画保全・教育訓練の推進計画を作成する | |
| Step 6:TPMキックオフ | 全社員参加のキックオフイベントでTPM活動を正式に開始する | |
| Step 7:生産効率化の仕組みの構築 | 個別改善・自主保全・計画保全・教育訓練・初期管理の活動を本格的に始動する | |
| 本格実施フェーズ | Step 8:生産効率化活動の定着 | 8本柱の活動を定着させ、PDCAサイクルを継続する |
| Step 9:設備の初期管理体制の確立 | 新設備・新製品のMP活動と初期管理の仕組みを標準化する | |
| Step 10:品質保全体制の確立 | 品質条件の保全活動を本格化し、工程不良ゼロを達成する | |
| Step 11:安全・衛生・環境管理体制の確立 | 設備起因の労働災害・環境リスクをゼロにする体制を確立する | |
| 定着フェーズ | Step 12:TPMの完全実施と高度化 | 全ステップの活動が定着し、TPM表彰(JIPM賞)への挑戦や次の目標設定を行う |
4. 現場実態:TPMが機能しない理由
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2025年3月実施、n=500)によると、専用の保全管理システムを利用している工場でも「定期点検の未実施」が設備停止原因の37.3%を占めていました。TPMの中核活動である自主保全・計画保全の点検計画が立案されていても、実施管理の仕組みが整っていないことがTPM活動の定着を妨げる主要因となっています。
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2025年3月実施、n=500)によると、工数管理が不明確な工場では、突発停止への対策が「なし」と回答した割合が26.1%に達し、工数を80%以上把握している工場(4.2%)の6倍以上でした。保全の担当者・工数が明確でない組織では、TPMの8本柱のうち計画保全・自主保全の実行責任が曖昧になり、活動が形骸化するリスクが高くなります。
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2024年12月実施、n=500)によると、部長層では予知保全をTop3の投資優先事項として挙げた割合が56.2%であるのに対し、社長層では22.9%にとどまりました。設備の停止ロスを日常的に目にする中間管理職と経営層の間で予防保全への投資意欲にギャップがあり、TPM活動への経営資源の投入が進みにくい構造が見られます。
製造設備の突発停止、その損失を把握していますか?
八千代ソリューションズの調査レポート「製造設備の突発停止」(n=500)では、TPMが機能していない工場の実態と改善策を詳報。無料でダウンロードできます。
5. 中小製造業がTPMを始める4ステップ
フルスペックのTPM(12ステップ・8本柱)を一度に導入することは中小製造業には現実的ではありません。核心となる「自主保全」と「計画保全」の2本柱から着手するアプローチが有効です。
| ステップ | 取り組み内容 | ポイント |
|---|---|---|
| Step 1 | OEEと突発停止の現状把握 | 主要設備3〜5台のOEE・突発停止件数・保全コストを計測し、TPM活動の出発点となる現状データを作成する |
| Step 2 | 自主保全の開始(清掃・給油・点検基準の整備) | 初期清掃から着手し、清掃・給油・増締め基準書と日常点検チェックシートを作成してオペレーターによる日常活動を定着させる |
| Step 3 | 計画保全の整備(定期点検計画と記録管理) | 重要設備のTBM(定期保全)スケジュールを策定し、実施率95%以上を目標に管理する。保全記録をデジタルで蓄積してMTBFを算出する |
| Step 4 | OEEの改善サイクル(個別改善)の開始 | 月次でOEEを集計し、停止原因の上位3件に絞って改善活動(なぜなぜ分析・対策実施)を繰り返す。小集団活動で改善を継続する |
よくある質問(FAQ)
Q1. TPMとTQM(全社的品質管理)の違いは何ですか?
TQM(Total Quality Management)は品質改善を全社的に推進する経営手法で、主に製品・サービスの品質に焦点を当てます。TPMは設備の効率最大化を主目的とし、「ゼロ故障・ゼロ欠点・ゼロ災害」を設備側から追求します。TPMの品質保全(8本柱の⑥)はTQMと重なる部分がありますが、出発点は「設備」です。TPMとTQMを並行して推進している製造業も多くあります。
Q2. JIPM賞(TPM認定)とはどのような制度ですか?
JIPM(公益社団法人 日本プラントメンテナンス協会)が審査・認定する表彰制度で、TPM活動の成熟度を第三者が評価します。JIPM賞は「優秀賞」「継続賞」「特別賞」などがあり、工場・事業所単位で申請できます。認定取得が目標ではなく、TPM活動の継続的改善が本来の目的です。
Q3. TPMを導入するのに必要な期間はどのくらいですか?
フルスペックのTPM(12ステップ・全8本柱)を完成させるには一般的に3〜5年かかります。ただし「自主保全+計画保全」の2本柱から始める場合、自主保全Step 1〜3(初期清掃・発生源対策・基準書作成)を6〜12ヶ月で実施し、計画保全の定期点検体制を整えることが最初のマイルストーンとなります。中小製造業では時間をかけて段階的に活動を積み上げることが現実的です。
Q4. 保全専任者がいない工場でもTPMはできますか?
できます。TPMの根本は「全員参加」であり、保全専任者がいない中小工場ではオペレーターが自主保全を担うことが事実上の保全体制となります。自主保全(清掃・給油・点検・基準書)を整備してオペレーターが設備の異常を発見できる能力を高め、修理・交換は外注保全に依頼するフローを確立することで、専任者なしでもTPMの核心活動を進めることができます。
Q5. TPMの効果指標はどう設定すればよいですか?
①OEE(設備総合効率)②突発停止件数・時間③MTBF(平均故障間隔)④計画保全実施率⑤保全費率(保全費÷売上高)の5指標が基本です。TPM活動の開始前に現状値を計測し、活動後の改善幅を定量化することで経営への報告根拠が得られます。
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