設備台帳とは、工場が保有するすべての設備(機械・装置・設備)の仕様・履歴・担当者情報を一元的に記録・管理するデータベースです。設備保全・点検・部品管理・更新計画の起点となる「保全管理の土台」であり、台帳なしでDXを進めると管理対象がブレて施策が崩壊します。本記事では設備台帳の必須記載項目・作成手順・運用のポイントを解説します。
1. 設備台帳が必要な理由:台帳なし工場の実態
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2024年5月実施、n=500)によると、保全管理システムを利用していない工場(非利用層)では、設備台数を「わからない」と回答した割合が32.2%に達しました。自社にどれだけの設備があるかすら把握できていない状態でDXを進めても、点検・部品管理・更新計画のすべてで対象が定まらず、効果が出ません。
同調査では、保全管理システム非利用層における部品点数を「わからない」の割合が56.1%(全体平均39.2%)に上りました。設備台帳が整備されていないと、部品の在庫管理が属人化し、欠品による生産停止や重複購買が常態化します。
| 設備台帳がない場合のリスク | 具体的な問題 |
|---|---|
| 点検計画が立てられない | どの設備を、いつ、どう点検するかの起点がなく、点検が属人化・形骸化する |
| 部品管理が崩壊する | どの設備にどの部品が使われているか不明なため、欠品・無駄な在庫が増大する |
| 故障履歴を設備と紐づけられない | 設備ごとの故障傾向が分析できず、再発防止策が立てられない |
| 設備更新の判断ができない | 設備の経年・取得コスト・累積修理費が不明なため、延命か更新かの判断根拠がない |
| DXの対象が定まらない | 管理対象設備が確定していないため、IoTセンサー設置・システム導入が場当たり的になる |
2. 設備台帳の必須記載11項目
設備台帳に記載すべき項目は「設備を識別する情報」「管理上必要な情報」「保全に必要な情報」の3カテゴリに分類されます。まずは以下の11項目を最低限として整備し、運用しながら必要に応じて項目を追加します。
| # | 項目 | 記載内容・ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 設備ID(管理番号) | 自社独自の管理番号。例:「工場コード-ライン番号-連番」形式。QRコード化してプレート貼付すると現場での照合が容易になる |
| 2 | 設備名称 | 設備の正式名称。略称・通称が複数ある場合は別名欄を設ける |
| 3 | 設置場所 | 工場・建屋・ライン・ベイまで細分化。レイアウト図のセル番号と紐づけると更に便利 |
| 4 | メーカー・型式・シリアル番号 | 部品調達・メーカーサポート時に必須。型式・シリアル番号は設備銘板から転記 |
| 5 | 製造年・導入年 | 設備経年の算出に使用。保険・減価償却管理とも連携 |
| 6 | 取得価格・現在簿価 | 更新投資判断・資産管理に使用。経理部門と連携して記載 |
| 7 | 保全区分 | 予防保全・事後保全・予知保全・法定点検の別。設備重要度(ABC分類)と紐づける |
| 8 | 点検周期・点検担当者 | 日常点検・定期点検・精密点検の周期と担当者名(または役割)を記載 |
| 9 | 使用部品・消耗品リスト | 主要消耗品の品番・メーカー・標準交換周期。購買担当者と共有することで欠品を防止 |
| 10 | マニュアル・図面の保管場所 | 取扱説明書・電気回路図・油圧回路図の格納場所(フォルダパスまたはファイルサーバーURL) |
| 11 | 故障・修理履歴のリンク | 設備IDと故障記録を紐づける参照先(別シートまたは保全管理システムのURL) |
3. 設備台帳の作成手順
設備台帳の整備は「完璧な台帳を最初から作る」のではなく、「最小限の情報を素早く整備してから徐々に充実させる」段階的アプローチが成功の鍵です。
Step 1:棚卸し(設備の全件リストアップ)
工場の全設備を歩き回り、設備ID・設備名称・設置場所の3項目だけを最初に記録します。目安は1日〜3日(設備数100台以内であれば)。この段階で「台帳に登録する対象設備の全件数」を確定させます。
Step 2:優先設備の詳細情報を収集
棚卸しで確定した全件に対し、停止した場合の生産影響度・故障頻度・修理コストでABC分類を行います。A設備(重要度高)から優先的に11項目の詳細情報を記入します。C設備(重要度低)は最小情報のみでよい。
Step 3:Excelテンプレートで一元管理を開始
まずExcelで台帳を作成します。シート構成の推奨例を以下に示します。
| シート名 | 内容 |
|---|---|
| 設備マスタ | 全設備の11項目(必須項目を網羅したメインシート) |
| 点検スケジュール | 設備IDと連動した点検計画カレンダー(月次・年次) |
| 部品リスト | 設備IDと紐づいた消耗品・予備品の品番・在庫数・発注点 |
| 故障・修理履歴 | 設備IDごとの故障日・原因・処置内容・停止時間・修理費の記録 |
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4. Excelで管理する場合の限界と移行タイミング
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2024年12月実施、n=500)によると、従業員10人未満の製造業では保全記録を「紙」で管理している割合が81.4%(大企業33.3%)に上りました。小規模工場ほどExcel・紙での台帳管理が多く、移行の壁が高い実態があります。
Excelでの設備台帳管理は低コストで始められる一方、以下の限界が生じた段階でシステム移行を検討することを推奨します。
| Excelの限界サイン | 理由と影響 |
|---|---|
| 管理設備が100台を超えた | シート間のVLOOKUP・参照関係が複雑になり、更新ミス・バージョン不整合が増加する |
| 複数人が同時に更新するようになった | 排他制御ができないため、上書きによるデータ消失が発生する |
| 点検漏れが月に複数回発生するようになった | Excelはアラート機能がなく、点検期限を誰も管理していない状態になる |
| スマートフォンでの現場入力が必要になった | ExcelはPCでの入力が前提で、現場での即時記録が困難 |
| 故障傾向の分析をしたくなった | データの蓄積はできても、集計・グラフ化・設備間比較の工数が大きい |
5. 設備台帳の維持管理:更新ルールを決める
設備台帳は「作って終わり」ではなく、情報が常に最新状態に保たれていることに価値があります。更新が止まった台帳は使われなくなります。以下のルールを最初から決めておくことで、台帳の鮮度を維持します。
| 更新トリガー | 更新内容 | 担当者 |
|---|---|---|
| 新規設備の導入時 | 設備マスタに新規行を追加し、全11項目を記入 | 設備担当者(購買または保全) |
| 設備の移設・廃棄時 | 設置場所を更新 or 廃棄日を記入して「廃棄済」ステータスに変更 | 設備担当者 |
| 修理・部品交換の実施時 | 故障・修理履歴シートに日付・原因・処置・費用を記録 | 保全担当者 |
| 部品の品番変更・廃番時 | 部品リストシートの品番・代替品番を更新 | 購買担当者 |
| 点検担当者の変更時 | 点検担当者欄を更新し、新担当者への引き継ぎを実施 | 保全管理者 |
6. よくある質問(FAQ)
Q1. 設備台帳と設備管理台帳は同じものですか?
ほぼ同義で使われます。「設備台帳」は保有設備の一覧データベース、「設備管理台帳」はそれに点検計画・履歴管理の機能を加えたものを指すことが多いです。本記事では両者を含めて「設備台帳」と呼んでいます。
Q2. 設備台帳は経理の固定資産台帳と統合すべきですか?
固定資産台帳は取得価格・減価償却のための会計用途、設備台帳は保全・点検管理のための現場用途と目的が異なります。両者をリンクさせる(設備IDを共通キーにする)ことは有用ですが、一つのリストに統合しようとすると管理項目が増えすぎて現場で使われなくなります。それぞれの目的に特化した台帳を維持し、設備IDで参照関係を作る設計を推奨します。
Q3. 設備台帳の整備にどれくらいの時間がかかりますか?
設備100台・担当者2名の場合、基本11項目のデータ収集・入力に1週間〜2週間程度かかることが多いです。設備銘板の情報が整っている場合は短縮できます。最初は「設備ID・設備名・設置場所・メーカー・型式」の5項目に絞り、2日で全件の骨格を作ってから詳細を追加していく方法が現実的です。
Q4. 外注業者が管理している設備も台帳に載せる必要がありますか?
自社工場内で使用する設備はすべて台帳管理対象です。ただし外注業者が保全を一括管理している設備については、台帳に「外注管理」と記載し、点検計画・記録を外注先からの報告書で管理する形が現実的です。法定点検対象設備は必ず記録を保管してください。
Q5. 設備台帳の項目をどこまで増やすべきですか?
「現場で実際に使われる情報だけ」が原則です。使われない項目を増やすと更新が止まり、台帳全体の信頼性が低下します。運用開始後3ヵ月で「この項目、実際に参照しているか」を見直し、不要な項目を削除することを推奨します。
Q6. クラウド型の設備台帳システムを使うメリットは何ですか?
クラウド型は、複数拠点・複数担当者によるリアルタイム更新・モバイルでの現場入力・点検漏れのプッシュ通知・故障データの自動集計が可能です。Excel管理から切り替える最大のメリットは「現場で入力して事務所で参照できる」点で、転記ミスと遅延が大幅に減ります。
7. まとめ
設備台帳は、設備保全・点検管理・部品管理・更新計画・保全DXのすべての起点となる「保全管理の土台」です。まず11項目の基本台帳をExcelで整備し、重要度の高い設備から詳細情報を充実させる段階的アプローチで進めてください。
設備台数が増え、Excel管理の限界(同時編集の排他・アラート機能・現場入力)を感じる段階で、保全管理システム(CMMS)への移行を検討してください。台帳の整備なしにシステムを導入しても効果は出ません。台帳整備→Excel運用→システム移行の順序を守ることが、保全DX成功の鍵です。
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「製造設備の突発停止」調査レポート(n=500)では、台帳・記録が整備されていない工場における損失実態を詳報。設備台帳整備の優先度判断にお役立てください。