校正とは(製造業):定義とトレーサビリティ
製造業における校正(キャリブレーション)とは、測定器・計測器の示す値と、国家計量標準(または国際標準)にトレーサブルな基準器の値を比較し、測定器の精度を確認・調整する作業です。ノギス・マイクロメーター・トルクレンチ・圧力計・温度計・電気計測器など、製造現場で使われるすべての測定器が校正の対象です。
製品の合否判定や工程管理に使用する測定データは、校正された測定器によって初めて信頼性が確保されます。未校正の測定器を使って「合格」と判定した製品が、実際には規格外であったというリスクは、クレーム・リコール・顧客信頼失墜に直結します。IATF16949やISO9001では、製品・サービスの適合性に影響する測定機器の校正管理が明確に要求されています。
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2024年5月実施、n=500)によると、製造業の品質管理担当者のうち「使用中の測定器の校正状況を台帳で管理している」と回答した割合は56.4%であり、43.6%の工場では校正管理が台帳化されておらず、測定器の校正履歴が追えない状態であることが示されています。
校正に関わる主要な用語と概念
| 用語 | 意味・解説 |
|---|---|
| トレーサビリティ | 測定値が国家計量標準(AIST・産総研等)まで切れ目なく比較・遡れる連鎖のこと。上位標準器→職場標準器→現場測定器の校正連鎖が確立していることが要件 |
| 校正周期 | 測定器の種類・使用頻度・使用環境・過去の校正結果に基づいて設定する次回校正までの期間。一般的に6ヶ月〜1年が多いが、リスクに応じて設定する |
| 校正証明書 | 外部の校正機関が発行する、測定器の校正を実施した事実・測定結果・不確かさを記載した文書。顧客審査・認証審査で提示を求められることがある |
| 測定の不確かさ | 測定値の信頼区間の幅を示す量。測定器の精度・繰り返し再現性・環境条件などが不確かさに影響する。IATF16949ではMSA(測定システム解析)での評価が要求される |
| 調整(アジャスト) | 校正の結果、測定器に誤差が確認された場合に行う修正作業。校正と調整は別概念であり、調整後には再度校正を実施する必要がある |
社内校正と外部校正の使い分け
校正には自社で実施する「社内校正」と専門の校正機関に委託する「外部校正」があります。社内校正は工数・費用を抑えられますが、上位の標準器の整備・維持と、校正を実施する要員の訓練が前提です。外部校正は費用が発生しますが、校正証明書(トレーサビリティの証跡)が得られ、認証審査対応がしやすいメリットがあります。一般的な使い分けの考え方は「基準となる職場標準器(マスターゲージ等)は外部校正、現場で使用する汎用測定器は社内校正」です。
校正管理の実践手順
Step1:測定器台帳の整備
全社で使用するすべての測定器をリストアップし、測定器台帳を作成します。台帳には測定器の識別番号・種類・保管場所・使用工程・校正周期・最終校正日・次回校正予定日を記載します。台帳はExcelまたは測定器管理システムで管理し、校正期限切れの測定器が使用される事態を防ぐ仕組みを設けます(期限切れアラートの設定・ステッカー貼付等)。
Step2:校正周期の設定
校正周期は測定器の種類・精度要求・使用頻度・使用環境(振動・温度変化・衝撃のリスク)・過去の校正結果の安定性を考慮して設定します。校正周期の設定根拠を文書化しておくことで、審査時の説明責任を果たせます。衝撃・落下などのインシデントが発生した場合は、校正周期に関わらず臨時校正を実施します。
Step3:校正の実施と記録
設定した校正周期に従い、社内校正または外部校正を実施します。社内校正では「誰が・どの標準器を使って・どの手順で・どの結果を得たか」を校正記録として残します。外部校正では校正機関から発行された校正証明書を保管します。校正結果が許容誤差内であれば合格、超えた場合は調整または廃棄・使用禁止の判断を行います。
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2024年12月実施、n=500)によると、校正管理の課題として「校正期限切れの測定器が現場で使用されていた経験がある」と回答した製造業は41.8%に達しており、台帳管理の不徹底が現場の計測リスクにつながっていることが示されています。
Step4:校正記録の保管と不適合対応
校正記録(社内校正記録・外部校正証明書)は、製品品質への影響が遡及できる期間、適切に保管します。校正の結果、測定器が許容誤差を超えていたことが判明した場合は、その測定器を使って測定した過去の製品に及んだ影響(遡及評価)を検討し、顧客への通知・隔離・再検査の要否を判断します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 校正が必要な測定器はどの範囲ですか?
製品・工程の合否判定・管理に直接使用する測定器(製品の寸法・重量・電気特性・温度・圧力などを測定する機器)が校正管理の対象です。参考値の確認や目安として使う簡易的な測定器(温湿度計など)は、リスク判断のうえで対象外とすることもできますが、その判断根拠を記録しておくことが審査対応上有効です。
Q2. 校正周期はどのくらいが一般的ですか?
JIS規格や業界ガイドラインで定められた標準周期はなく、リスクに応じた設定が基本です。ノギス・マイクロメーターなど汎用測定器は6ヶ月〜1年、トルクレンチは使用頻度に応じて3〜6ヶ月、電気計測器は1年が目安として広く使われています。過去の校正結果が安定している測定器は周期延長を検討できます。
Q3. 測定器が校正周期切れで使用されていた場合はどうすればよいですか?
まず当該測定器の使用を停止し、直ちに校正を実施します。校正の結果を確認し、許容誤差内であれば「過去の測定結果に影響なし」と判断できます。許容誤差を超えていた場合は遡及評価が必要です。再発防止として、校正期限切れアラートの仕組みと測定器の使用前確認(ステッカー・台帳確認)の手順を整備します。
Q4. 社外の校正機関を選ぶ際のポイントは何ですか?
ISO/IEC 17025(試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項)の認定を受けた校正機関を選ぶことが、トレーサビリティの信頼性確保の基本です。日本では認定機関(IAJapan認定校正機関)のリストを産業技術総合研究所(AIST)のWebサイトで確認できます。
Q5. ソフトウェアで行う測定(画像寸法計測・3Dスキャン等)も校正が必要ですか?
測定システム全体(ハードウェア+ソフトウェア)として校正が必要です。画像寸法計測では基準ゲージを使ったシステム校正・MSAによる繰り返し再現性の評価が求められます。IATF16949では測定システム解析(MSA)を測定機器に適用するよう要求しており、画像・3Dスキャン等の先進計測技術も例外ではありません。
まとめ:校正管理は製品品質の信頼性の土台
製造業における計測器校正は、製品の品質保証と顧客・認証機関への説明責任の基盤です。測定器台帳の整備・校正周期の設定・記録の保管という基本的な管理サイクルを確立し、校正期限切れ測定器が現場で使われる状況を防ぐことが校正管理の核心です。校正管理の自動化(台帳システム・期限アラート)を段階的に整備することで、管理工数を削減しながら確実な測定精度の維持が実現します。