自主保全とは、生産部門のオペレーター(機械の操作担当者)が自ら設備の清掃・給油・増締め・点検を行い、「自分の設備は自分で守る」状態を実現する保全活動です。TPM(Total Productive Maintenance:全員参加の生産保全)の8本柱の第一の柱として位置づけられ、保全専門部門が担う「計画保全」と対をなす活動です。本記事では自主保全の定義・目的・TPMの7ステップ・計画保全との役割分担・中小製造業での実践方法を解説します。
1. 自主保全の目的と計画保全との役割分担
自主保全と計画保全は、設備保全の両輪です。オペレーターと保全専任者の役割を明確に分離・連携させることで、設備の劣化を組織全体でコントロールします。
| 区分 | 自主保全 | 計画保全 |
|---|---|---|
| 担当者 | 生産部門のオペレーター | 保全専門部門の技術者 |
| 主な活動 | 日常清掃・給油・増締め・日常点検・異常の早期発見 | 定期点検・分解整備・精密点検・部品交換・予知保全 |
| 目的 | 劣化の発生を抑制する(劣化防止) | 劣化を検知・修復する(劣化回復) |
| 管理の視点 | 設備を正常な状態に保つ基本条件の維持 | 計画的な整備と突発停止の予防 |
| 必要スキル | 設備の正常・異常を判断できる感覚(異常発見力) | 劣化の診断・修復・交換の技術(修理・改善力) |
2. TPMにおける自主保全の7ステップ
TPMでは、自主保全を7つのステップで段階的に進めます。各ステップで「達成の確認」(審査)を経てから次のステップに進みます。
| ステップ | 活動内容 | 達成の目安 |
|---|---|---|
| Step 1:初期清掃 | 設備・治工具の塵埃・汚れ・錆を完全に除去し、ゴミ・汚れが問題と異常を隠していないかを確認する | 設備が清潔な状態を維持できる |
| Step 2:発生源・困難箇所対策 | 汚れ・ゴミの発生源を特定し、飛散防止・清掃困難箇所の改善を実施する | 清掃時間が短縮される |
| Step 3:清掃・給油・増締め基準書の作成 | 清掃・給油・増締めの対象・方法・周期・担当をまとめた基準書を作成し、日常活動に組み込む | 基準書に従った日常活動が定着する |
| Step 4:総点検 | OJT形式の教育で機構・機能の知識を習得し、設備の全箇所を点検して潜在欠陥をすべて発見・修正する | オペレーターが設備の構造を理解している |
| Step 5:自主点検 | Step3の基準書とStep4の総点検を統合し、オペレーターが実施する自主点検チェックシートを作成・実施する | 自主点検チェックシートを活用した日常点検が定着する |
| Step 6:標準化 | 工程・品質・設備・安全に関わる管理項目を整理し、現場の管理標準を整備する | 現場の管理基準が文書化・統一される |
| Step 7:自主管理の徹底 | 改善活動を自律的に実施し、目標を設定・管理できる現場体制を確立する | オペレーターが改善サイクルを自走している |
3. 現場実態:自主保全が機能しない理由
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2024年12月実施、n=500)によると、保全専任担当者が「いない」と回答した工場の割合は従業員10人未満で53.6%に上り、大企業(5.1%)と大きな差があります。中小製造業では保全専任者が不在のため、オペレーターが保全活動を兼務している実態があり、自主保全の仕組みを正式に整備しなくてもオペレーターが実質的な保全を担っている状況が多くあります。
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2025年3月実施、n=500)によると、専用の保全管理システムを利用している工場でも「定期点検の未実施」が設備停止原因の37.3%を占めていました。自主保全の点検計画は作成されているにもかかわらず、実施管理が徹底されていないことが自主保全の定着を妨げる最大の障壁となっています。
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2024年12月実施、n=500)によると、従業員10人未満の工場の保全担当者の平均81.2%が50歳以上です(大企業30.9%)。自主保全の担い手であるオペレーターが高齢化しており、設備知識・点検スキルの若手への技術伝承が自主保全活動の継続性において重要な課題となっています。
製造設備の突発停止、その損失を把握していますか?
八千代ソリューションズの調査レポート「製造設備の突発停止」(n=500)では、自主保全が機能していない工場の実態と改善策を詳報。無料でダウンロードできます。
4. 自主保全の3種の神器
TPMでは、自主保全の基本活動として「3種の神器」と呼ばれる3つの記録・ツールを整備します。
| ツール | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 欠陥発見タグ(不具合タグ) | 点検中に発見した異常・不具合箇所に赤タグ(直ちに対処)・青タグ(保全専任者対応依頼)を貼付する | 異常の見える化と対応状況の追跡 |
| 清掃・給油・増締めリスト | 日常の清掃・給油・増締めの対象・方法・頻度・担当者を一覧化した基準書 | 作業の標準化と実施漏れ防止 |
| 自主点検チェックシート | 設備の点検項目・判断基準・点検周期・担当者を記載したチェックシート | 日常点検の品質確保と記録の蓄積 |
5. 中小製造業が自主保全を導入する4ステップ
| ステップ | 取り組み内容 | ポイント |
|---|---|---|
| Step 1 | 対象設備の選定と初期清掃の実施 | 主要生産設備2〜3台に絞り、初期清掃を徹底する。設備の異常発見力を養う最初の機会にする |
| Step 2 | 清掃・給油・増締め基準書の作成 | 現場のオペレーターが自ら作成・改訂できる形式で作成する。A4一枚程度からスタートする |
| Step 3 | 日常点検チェックシートの実施 | チェックシートは「OK/NG判定」が明確になる記述で作成する。記録はデジタルで管理する |
| Step 4 | 不具合発見タグの運用と改善活動 | 発見した不具合を計画保全(保全専任者・外注)に引き継ぐルートを明確にし、改善結果をフィードバックする |
設備保全全体の体系については設備保全とは?種類・目的・進め方を解説もあわせてご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自主保全は「清掃」のことですか?
清掃はStep 1(初期清掃)の入口にすぎません。自主保全の本質は「オペレーターが設備の正常・異常を自ら判断できる能力を身につけること」であり、清掃はそのための異常発見訓練として位置づけられます。Step 4以降の総点検・自主点検・標準化・自主管理まで進んで初めて自主保全が機能した状態といえます。
Q2. 自主保全士の資格は必要ですか?
必須ではありません。自主保全士(JIPM認定)は、オペレーターが設備保全知識を体系的に学ぶための民間資格であり、取得することで設備知識・異常発見力が向上します。中小企業では資格取得よりも現場での自主保全活動の定着を優先し、スキルアップの一手段として資格を活用する方法が現実的です。
Q3. 自主保全と予防保全はどう違いますか?
予防保全はTBM(定期保全)やCBM(状態基準保全)などの保全方式の総称です。自主保全はTPMの組織的活動で、オペレーターが担う役割を指します。自主保全の実施内容(日常点検・清掃・給油)は予防保全の一部であり、自主保全が適切に機能することで設備の劣化が抑制され、予防保全の効果が最大化されます。
Q4. 保全専任者がいない工場でも自主保全はできますか?
できます。むしろ保全専任者がいない中小製造業こそ、オペレーターが自主保全を担うことが事実上の唯一の保全体制となっています。清掃・給油・増締め・日常点検の実施と記録から始め、異常を発見したら外注保全会社に連絡するフローを整備することで、保全専任者なしでも基本的な保全活動を維持できます。
Q5. 自主保全の効果をどう測定すればよいですか?
①日常点検実施率(チェックシートの記入率)②不具合タグの発見件数と解決件数③突発停止件数・MTBF(平均故障間隔)の推移の3指標で効果を測定します。特に突発停止の削減件数と停止時間の削減は、経営へのOEE(設備総合効率)改善として報告できます。
自主保全の点検チェックシートを電子化する無料Excelツール
日常点検チェックシート・不具合記録・MTBF集計をExcelで一元管理。「点検計画はあるが実施できない」をExcelツールから解消できます。製造業特化の工場管理システムMENTENAが提供する無料テンプレートです。