保全記録とは、設備の点検・修理・部品交換などの保全活動を実施した内容・日時・担当者・結果をデータとして残す記録です。設備保全の品質は保全記録の精度に直結しており、記録が不十分な工場は同じ故障を繰り返す構造的な問題を抱えます。本記事では保全記録の必須項目・書き方・電子化の進め方を解説します。
1. 保全記録が必要な理由:記録のない工場で起きること
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2025年3月実施、n=500)によると、保全工数を80%以上把握できている工場では記録を「している」と回答した割合が90.1%でしたが、工数が把握できていない工場では21.7%にとどまりました。記録する習慣が、保全の見える化を支えています。
保全記録が不十分な場合、以下の問題が起きます。
| 保全記録がない場合のリスク | 具体的な影響 |
|---|---|
| 同じ故障の繰り返し | 原因・処置内容が記録されていないため、次の担当者が同じ対処法を一から探す |
| 部品交換のタイミングを見失う | 過去の交換日・使用時間が不明なため、消耗品の交換時期が管理できない |
| 故障傾向の分析ができない | 設備別・部位別の故障件数・停止時間が集計できず、重点対策を立てられない |
| 保全の引き継ぎができない | ベテランが退職すると、過去の処置方法・設備の癖が失われて対応に時間がかかる |
| 法定点検の証跡がない | 法定点検の実施記録がなければ、行政検査・事故時の証拠として機能しない |
2. 保全記録の3種類:点検記録・故障記録・修理記録
保全記録は目的と内容によって3種類に分類されます。それぞれの役割と必須記載項目を理解して、現場に合った記録フォーマットを設計します。
①点検記録
定期点検・日常点検の実施内容と結果を記録するもので、「いつ・誰が・何を・どう確認したか」が残ります。点検チェックリストと連動させることで、記録漏れを防ぎます。
②故障記録(故障報告書)
設備が故障・停止した際に作成する記録です。故障の状況・原因・処置内容・停止時間を残すことで、故障分析・再発防止策の立案に活用します。
③修理記録(作業報告書)
保全作業(修理・部品交換・整備)を実施した際の作業内容・使用部品・工数を記録するものです。保全費用の管理・部品在庫管理・次回交換時期の算出に使用します。
3. 保全記録の必須記載項目
点検記録の必須項目
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 設備ID・設備名 | 点検対象設備を特定する。設備台帳と紐づけるキー情報 |
| 点検日時・点検者 | いつ・誰が実施したかを記録。法定点検では必須 |
| 点検項目・判定結果 | チェックリストの各項目ごとに「○(正常)・△(要注意)・×(異常)」を記録 |
| 数値データ(測定値) | 油圧・エア圧・温度・振動値など測定した数値を記録 |
| 所見・備考 | 気になった事象・異常の詳細・次回確認すべき点などを自由記述 |
| 異常発見時の対処内容 | 異常が発見された場合の応急処置・報告先・処置状況を記載 |
故障記録の必須項目
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 設備ID・設備名・設置場所 | 故障した設備の特定 |
| 故障発生日時・復旧完了日時 | 停止時間(MTTR)の算出に必須。「発生」と「復旧」の両方を記録する |
| 故障の状況・症状 | 停止時の状態・異常音・エラーコードなど。写真を添付すると精度が上がる |
| 故障の原因(推定) | 技術的な原因分析。「摩耗」「劣化」「折損」「動作不良」など原因コードを使うと集計しやすい |
| 処置内容・使用部品 | 何をどうしたか。交換部品の品番・数量を記録 |
| 再発防止策 | 同様の故障を再発させないための対策。保全計画の改善や点検項目の追加につながる |
| 修理費用・作業工数 | 部品費・外注費・自社工数を記録。保全コスト管理の基礎データ |
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4. 保全記録が「書かれない」3つの理由と対策
理由①:記録フォーマットが煩雑で時間がかかる
記録項目が多すぎると、現場では「後で書く」と後回しにされ、最終的に書かれなくなります。故障記録は必須7項目に絞り、「5分で書けるフォーマット」にすることが定着の条件です。
対策:故障原因・処置内容にプルダウン選択肢(原因コード・処置コード)を設けて記入工数を削減する。
理由②:記録した後に何もフィードバックがない
保全担当者が記録を書いても、それが故障分析・計画改善に使われた形跡がないと「記録する意味がない」と感じます。月次レビューで「記録データから見えた傾向」を担当者にフィードバックすることが、記録継続のモチベーションになります。
理由③:記録場所が現場から遠い(紙・PCが事務所のみ)
故障した設備の前で記録できる環境がなければ、事務所に戻ってから記録する手順になり、記録内容が不正確になるか、書かれなくなります。現場での即時記録を可能にする仕組み(現場掲示のフォーム・スマートフォン対応システム)が有効です。
5. 保全記録の電子化:段階的な移行手順
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2025年3月実施、n=500)によると、専用の保全管理システムを利用している工場では「定期的に記録する」習慣が定着している割合が50.0%でしたが、システムを使用していない工場では13.5%にとどまりました。システムは記録習慣を定着させる基盤として機能します。
保全記録の電子化は以下の段階で進めることを推奨します。
| 段階 | 状態 | 移行の方法 | メリット |
|---|---|---|---|
| Stage 1 | 紙の記録 | まず紙のフォーマットを統一し、記録の習慣を作る | コスト不要。現場の抵抗が最小 |
| Stage 2 | Excelに転記 | 紙から週次でExcelに転記。集計・分析が可能になる | 導入コスト低。月次集計・グラフ化ができる |
| Stage 3 | Excelで直接入力 | 事務所PCでExcelに直接入力。転記工数をゼロにする | 転記ミスの排除。入力データが即座に集計される |
| Stage 4 | 保全管理システム(CMMS) | 現場スマートフォンからリアルタイム入力。点検漏れアラート・設備別履歴検索が可能 | リアルタイム把握・アラート機能・自動集計 |
6. 保全記録の活用:データを改善につなげる
保全記録は「書いて終わり」ではなく、「分析して改善する」ことで価値が生まれます。蓄積した記録データの活用方法を以下に整理します。
| 活用目的 | 必要な記録データ | 活用方法 |
|---|---|---|
| 故障多発設備の特定 | 設備別の故障件数・停止時間 | 月次で故障ランキングを集計し、上位設備を重点保全対象に指定する |
| 部品交換周期の最適化 | 消耗品の交換日・使用時間・交換前の劣化状況 | 過去の交換記録から実際の寿命を算出し、計画交換周期を更新する |
| 保全計画の改善 | 計画保全実施率・未実施理由 | 未実施の原因(人員不足・資材不足・生産優先)を分析し、翌年計画に反映する |
| 再発防止策の立案 | 故障原因・処置内容・再発防止策 | 同じ原因コードの故障が繰り返されている設備を抽出し、根本対策を検討する |
| 設備更新の判断根拠 | 累積修理費・停止時間・保全工数 | 取得価格に対する累積保全費を算出し、更新投資のROI判断に使用する |
7. 法定点検の記録保管義務
法定点検の記録は法令で保存期間が定められています。保管義務がある記録を紛失した場合、行政指導の対象になるほか、事故発生時の責任追及において不利な立場に立たされるリスクがあります。
| 設備・点検種別 | 根拠法令 | 記録の保存期間 |
|---|---|---|
| クレーンの定期自主検査 | 労働安全衛生規則 | 3年間 |
| プレス機械の定期自主検査 | 労働安全衛生規則 | 3年間 |
| フォークリフトの定期自主検査 | 労働安全衛生規則 | 3年間 |
| ボイラーの性能検査 | 労働安全衛生法 | 検査証に記載(機器廃棄まで) |
| 自社任意の点検・修理記録 | 義務なし | 故障分析・更新判断に活用するため、最低3年の保管を推奨 |
8. よくある質問(FAQ)
Q1. 保全記録は手書きとExcel、どちらがよいですか?
最初の段階(記録の習慣化)では手書きでも構いません。手書きの良さは現場での即時記録ができる点です。ただし、集計・分析・履歴検索を活用する段階になったら、Excelまたは保全管理システムへの移行を検討してください。最終的には現場入力→データ蓄積→自動集計ができる仕組みが保全改善を加速させます。
Q2. 故障記録はどのタイミングで書けばよいですか?
修理完了後すぐに書くことが原則です。「後で書く」は記録内容が曖昧になるか、記録自体が行われなくなる原因です。故障発生〜復旧〜記録完了を「一つの作業」として定義し、記録なしで完了とみなさないルールを設けることが定着への近道です。
Q3. 保全記録を外注業者と共有する必要はありますか?
外注業者が点検・修理した内容の記録は、作業後に業者から受領した報告書を保管することで対応します。自社の保全管理台帳に外注分の記録を転記して一元管理すると、設備全体の履歴を一箇所で参照でき、故障分析の精度が向上します。
Q4. 保全記録の書き方がバラバラで担当者によって質が異なります。どうすればよいですか?
記録フォーマットの標準化と、原因コード・処置コードのプルダウン化が最も効果的です。「どう書くか」を担当者の判断に委ねず、選択肢から選ぶ形式にすることで、記録品質が担当者に依存しなくなります。また、月次レビューで「記録の書き方の良い例・悪い例」をフィードバックすることも有効です。
Q5. スマートフォンで保全記録を入力できるようにするにはどうすればよいですか?
まずExcelをOneDriveまたはGoogleドライブに保存してスマートフォンからアクセスできるようにする方法が最も低コストで始められます。入力の利便性を高めたい場合は、スマートフォン対応の保全管理システム(CMMS)の導入を検討してください。現場での即時入力が可能になると、記録の定着率が大幅に向上します。
9. まとめ
保全記録は、設備保全を「属人的な経験」から「データに基づく組織的な仕組み」に転換するための基盤です。点検記録・故障記録・修理記録の3種類をシンプルなフォーマットで整備し、記録→集計→分析→改善のサイクルを回すことで、突発停止の削減・保全コストの最適化・技術伝承が実現します。
まず「5分で書ける故障報告書」を一枚作成し、記録する文化を現場に根付かせることから始めてください。記録の習慣ができれば、その後の電子化・システム化への移行がスムーズに進みます。
記録が定着している工場・していない工場の損失差を調査データで確認する
「製造設備の突発停止」調査レポート(n=500)では、保全記録の整備状況と突発停止の頻度・損失金額の相関を詳報。保全記録整備の優先度判断にご活用ください。