保全計画とは、設備の点検・整備・部品交換・オーバーホールを事前に計画し、突発停止を計画的な保全活動に置き換えるための年間〜月次スケジュールです。設備保全の実効性を左右する「計画→実施→記録→改善」のサイクルを回す起点となります。本記事では保全計画の目的・種類・年間スケジュールの作成手順を解説します。
1. 保全計画が必要な理由
保全計画がない工場では、保全活動の大半が突発対応(故障してから修理する事後保全)になります。突発対応は計画的な整備と比べて修理コストが高く、生産への影響も大きくなります。
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2025年3月実施、n=500)によると、専用の保全管理システムを利用している工場においても「定期点検の未実施」が突発停止の原因として挙がった割合は37.3%でした。計画自体は存在しても、実施管理が機能していないことが多くの現場に共通する課題です。
また、八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2024年5月実施、n=500)によると、保全管理システムを使用していない工場では保全工数を「わからない」と回答した割合が33.2%に上りました。工数が見えない工場では、保全活動の優先順位も、計画の有効性検証も行えません。
| 保全計画あり | 保全計画なし |
|---|---|
| 停止タイミングを事前に設定できる(計画停止) | 設備が壊れてから緊急対応する(突発停止) |
| 部品・材料・人員を事前に準備できる | 部品が手配できず復旧が長引く |
| 生産計画との調整が可能 | 生産ラインを止めて緊急修理せざるを得ない |
| 保全コストが予測可能・平準化される | 大きな修理費用が突然発生し、予算超過になる |
| 保全実績の蓄積→次年度計画の改善に活用できる | 実績がなく毎年同じ突発対応を繰り返す |
2. 保全計画の3種類:年次・月次・週次
保全計画は計画の時間軸によって3層構造で運用します。それぞれの役割と内容を理解した上で、自社に適したレベルから始めることが重要です。
| 計画種別 | 時間軸 | 主な内容 | 作成者 |
|---|---|---|---|
| 年間保全計画 | 1年間 | オーバーホール・精密点検・法定点検・大型部品の交換時期を年単位でスケジューリング | 保全管理者・設備責任者 |
| 月次保全計画 | 月単位 | 定期点検・消耗品交換・润滑剤補充・外注点検の実施予定日を月ごとに確定 | 保全担当者 |
| 週次作業計画 | 週単位 | 当週実施する保全作業の割り当て・資材調達・実施時間帯の確定 | 保全担当者・班長 |
3. 年間保全計画の作成手順
年間保全計画の作成は以下の6ステップで進めます。
Step 1:設備台帳から対象設備を確認する
保全計画の対象となる設備を設備台帳から抽出します。設備台帳に保全区分(予防保全・法定点検・事後保全など)が設定されていれば、「予防保全対象設備」のみを計画対象として絞り込めます。設備台帳が未整備の場合は、まず設備の棚卸しと台帳整備から始めることが先決です。
Step 2:前年の保全実績を集計する
前年に実施した点検・整備・部品交換の記録を集計し、「どの設備にどれだけの保全工数・費用がかかったか」を把握します。前年実績が計画の基準値となります。初年度の場合はメーカー推奨の点検周期を基準として使用します。
Step 3:生産計画と照合して計画停止枠を確保する
保全作業には設備停止時間が必要です。生産計画(年間生産スケジュール)と照合し、「保全のために設備を止めることができる時間帯」(計画停止枠)を確保します。一般的に、休日・定期メンテナンス日・季節の谷間(需要低期)に集中させることが多いです。
Step 4:設備ごとに保全項目と実施月を割り付ける
設備台帳の各設備に対し、実施する保全内容(点検・整備・部品交換・オーバーホール)と実施月を割り付けます。以下の優先順で計画を確定させます。
| 優先順位 | 保全項目 | 計画方針 |
|---|---|---|
| 最優先 | 法定点検(クレーン・プレス・ボイラー等) | 法令で定められた時期に必ず実施。逆算して申請・外注手配を計画する |
| 高 | オーバーホール・精密点検 | 設備停止時間が長いため、計画停止枠が最も大きい時期(連休・工場休止期)に配置する |
| 中 | 定期部品交換(消耗品・フィルター・ベルト等) | 交換周期(稼働時間・カレンダー)から逆算して月を確定する |
| 低 | 月次定期点検・潤滑剤補充 | 毎月定例として月次保全計画に落とし込む |
Step 5:資材・外注の手配計画を作る
保全計画の実施に必要な部品・消耗品の調達リードタイムを確認し、発注時期を逆算します。外注業者(メーカーサービス・専門保全会社)を使う場合は、実施月の2〜3ヵ月前から手配を開始します。部品の欠品・外注日程の都合で計画が崩れるケースが多いため、資材計画のリードタイム管理が保全計画の実行精度を左右します。
Step 6:計画を月次・週次に展開してフォローする
年間計画を月単位・週単位に展開し、実施状況を定期的にフォローします。計画どおりに実施できなかった場合は翌月に繰り越すか、リスクを評価した上でスキップするかを判断します。この判断記録を残すことが、翌年の計画改善につながります。
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4. 保全計画が機能しない4つの理由
理由①:生産計画との連携ができていない
保全部門が単独で計画を立てても、生産部門との合意がなければ「その日は生産があるので保全できない」と当日になって中止になります。保全計画は生産計画と並行して作成し、計画停止時間を事前に確保する「合意ベース」で進める必要があります。
理由②:計画の粒度が実作業レベルに落ちていない
「〇月にオーバーホールを実施する」だけでは計画として機能しません。「誰が・何時間で・どの工程で・どの部品を使って」まで落とし込まれて初めて、実施可能な計画になります。
理由③:前年の実績を反映しない計画の繰り返し
毎年同じ計画を「コピー」して翌年の計画とするケースが多く見られます。前年に計画して実施できなかった項目・実績より工数がかかった項目・新たに判明した劣化傾向を反映してこそ、計画の精度が毎年向上します。
理由④:予算が計画と連動していない
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2024年12月実施、n=500)によると、部長層では予知保全などの先進的な保全手法をTop3の投資優先項目に挙げた割合が56.2%に上りましたが、社長・経営者層では同回答が22.9%にとどまりました。保全計画を実行するためには経営層の予算承認が必要ですが、「保全にいくら必要か」を根拠をもって説明できる体制が整っていない工場では、計画どおりの予算が確保されません。保全計画と予算計画を連動させ、経営層へのROI提示と合わせて承認を得ることが計画実行の条件です。
5. 保全計画の評価指標(KPI)
保全計画の実効性を評価するために、以下の指標を計測します。
| 指標 | 計算式 | 目標値の考え方 |
|---|---|---|
| 計画保全実施率 | (実施件数 ÷ 計画件数)× 100 | 90%以上を目標。未実施理由を記録し翌月に繰り越す |
| 突発対応比率 | (突発保全工数 ÷ 総保全工数)× 100 | 計画保全が機能していれば30%以下が目安 |
| 計画外停止時間 | 突発停止による生産停止時間の合計(時間/月) | 前年比での削減率で評価する |
| 保全費の計画比 | (実績保全費 ÷ 計画保全費)× 100 | ±15%以内に収まっているかで計画精度を評価する |
6. よくある質問(FAQ)
Q1. 保全計画はどのくらいの頻度で見直すべきですか?
年間計画は年度末に翌年の計画を作成する際に抜本的に見直します。それ以外に、月次でフォローアップを行い、大きなズレ(設備追加・故障多発など)があれば四半期単位で修正します。
Q2. 外注先の保全工事はどのように計画に組み込めばよいですか?
外注保全は実施に先立って2〜3ヵ月前から業者の手配・日程調整・作業内容の確認が必要です。年間計画に外注予定として記載し、手配のリードタイムを逆算した発注開始日を月次計画に追加します。
Q3. 保全計画を立てたことがない場合、どこから始めればよいですか?
法定点検の管理から始めることを推奨します。法定点検は法令で実施義務があり、未実施は法的リスクになります。次に、停止した場合の損失が大きいA設備の定期点検を計画化し、徐々に対象設備を広げる順序で進めてください。
Q4. 設備が増えるたびに計画が膨らんでしまいます。どう対処すればよいですか?
設備のABC分類を定期的に見直し、C設備(事後保全で対応可能な設備)の計画保全を削減します。すべての設備を同じ密度で管理しようとすると、保全工数が膨張して本当に重要な設備への対応が遅れます。優先順位の明確化が設備数増加への対応策です。
Q5. 保全計画と生産計画が衝突した場合、どちらを優先すべきですか?
原則として、法定点検は生産計画に関わらず期限内に実施します。法定点検以外は、保全を遅らせた場合のリスク(故障確率・停止損失)と、生産を止めた場合の損失を比較して判断します。この判断を保全担当者が単独で行わず、生産・保全・経営の合意ベースで決定する仕組みを作ることが重要です。
7. まとめ
保全計画は、突発停止という「予期しないコスト」を「予測可能なコスト」に転換するための仕組みです。年間計画→月次計画→週次作業計画の3層構造で、設備の重要度に応じた保全内容を計画し、生産計画との合意を得た上で実施・記録・改善のサイクルを回すことが保全計画の本質です。
初めて保全計画を作成する場合は、法定点検の管理を起点に、A設備の定期点検を加える順序でシンプルに始めてください。計画の精度は実績の蓄積によって毎年向上します。
定期点検の未実施が招く突発停止の実態データ
「製造設備の突発停止」調査レポート(n=500)では、計画保全が機能している工場と機能していない工場の停止頻度・損失金額の差を詳報。保全計画の必要性を経営層に説明する際にご活用ください。