保全部品在庫とは、設備の修理・予防保全に使用する交換部品・消耗品をあらかじめ確保しておく在庫管理の仕組みです。適切に管理できていないと、欠品による突発停止の長期化と過剰在庫による資金の固定化という、二方向のロスが同時に発生します。本記事では、部品マスタの整備から適正在庫の設計・ABC分析・デジタル化まで、実務に即した管理方法を解説します。
1. 保全部品の種類と在庫管理の目的
保全部品は使用頻度・調達リードタイム・代替可能性によって3種類に分類するのが基本です。種類ごとに管理方針を分けることで、在庫量の最適化と欠品防止を両立できます。
| 種類 | 主な内容 | 管理方針 |
|---|---|---|
| 消耗品 | フィルター・オイル・グリース・ベルト・シール類 | 定期発注・最低在庫を設定して欠品防止 |
| スペアパーツ(予備品) | モーター・ポンプ・センサー・バルブ等の交換部品 | リードタイムと故障頻度を考慮して安全在庫を設定 |
| 予備機(ユニット交換品) | 制御盤ユニット・油圧ユニット等の交換可能なアッセンブリ | 1台保有で対応するか外注修理かを判断 |
在庫管理の目的は、「必要なときに必要な部品が手元にある状態」を最低コストで維持することです。欠品が起きれば修理待ちで停止時間が延長し、過剰在庫は資金の固定化と保管コスト・劣化リスクを生みます。この両方を防ぐには、部品の実態を把握する「部品マスタ」の整備が出発点です。
2. 部品マスタが整備されていない工場の実態
保全部品の在庫管理が機能しない最大の原因は、部品マスタ(部品の一覧・仕様・在庫量・発注先を管理するデータベース)が存在しないか、整備されていないことにあります。担当者の頭の中や個人ノートに部品情報が依存している工場では、担当者が不在になった瞬間に発注先も在庫数も分からなくなります。
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2024年5月実施、n=500)によると、保全管理システムを利用していない層では「部品点数がわからない」と回答した割合が56.1%にのぼります(全体平均39.2%)。部品マスタが存在しないことで、欠品・属人的な購買・重複発注が常態化します。
同調査によると、システム非利用層で「設備台数がわからない」と回答した割合は32.2%に達します。設備の台数が把握できていなければ、どの設備にどの部品が必要かのマッピング自体が不可能です。部品マスタの整備は、設備台帳の整備と一体で進める必要があります。
3. 適正在庫の設計:安全在庫・発注点・ABC分析
部品マスタを整備したら、次は適正在庫量の設計です。すべての部品に同じ管理をかけるのではなく、重要度と使用頻度に応じて管理の深さを変えるのが効率的です。
ABC分析で部品を3段階に分類する。Aランク(高頻度・高コスト)は在庫を厳密管理し発注点を設定、Bランク(中程度)は定期発注、Cランク(低頻度・低コスト)はまとめ発注か取り寄せ対応とします。全部品の20%がAランクで在庫コストの80%を占めることが多く、ここを重点管理するだけで在庫の最適化効果は大きくなります。
| 指標 | 定義 | 計算のポイント |
|---|---|---|
| 安全在庫 | 需要変動・リードタイム変動に備えた緩衝在庫 | 過去使用量の標準偏差 × 安全係数 × √リードタイム |
| 発注点(再発注点) | この在庫数を下回ったら発注するトリガー在庫数 | リードタイム中の平均使用量 + 安全在庫 |
| 発注量 | 1回の発注で補充する量 | 経済的発注量(EOQ)、またはロット単位・最低発注単位 |
部品の長期欠品が発生する最大の原因は、調達リードタイムの把握不足です。緊急調達が必要な際に、国内在庫なし・海外取り寄せで1か月以上かかるケースは製造現場では珍しくありません。重要部品については、メーカー・商社・代替品の3ルートを事前に把握しておくことがリスク管理の基本です。
4. 部品管理のデジタル化で実現すること
紙やExcelで部品在庫を管理している工場では、在庫の実態把握に限界があります。入出庫のたびに台帳を書き換える運用は手間がかかり、記録漏れ・二重計上・在庫の現物と帳簿の乖離(棚卸差異)が発生します。
八千代ソリューションズ株式会社によるオンライン調査(2025年3月実施、n=500)によると、紙や保全システム未導入の工場では「突発停止への対策を講じていない」割合が47.7%に達するのに対し、専用システム利用工場では6.7%にとどまります。部品在庫の可視化は突発停止対策の前提条件であることが分かります。
保全管理システムへの部品在庫機能の組み込みにより、入出庫の都度リアルタイムで在庫数が更新され、発注点を下回ったときの自動アラートが可能になります。また、設備ごとにどの部品をいつ消費したかが記録されるため、使用量の傾向分析と発注点の精度改善にもつながります。
5. まとめ:部品マスタの整備から始める在庫管理
保全部品の在庫管理を機能させるには、部品マスタの整備→ABC分類→適正在庫の設定→デジタル管理という順序で進めることが重要です。いきなり高度なシステムを導入するのではなく、まず部品の一覧と発注先を整備することが最初の一歩です。
設備の台帳整備と部品マスタは一体で進めると効率的です。台帳の作成方法については設備台帳の作り方も確認してください。設備保全活動の全体像については設備保全とはも参照してください。
よくある質問(FAQ)
- Q. 保全部品の在庫管理はどこから始めればよいですか?
- まず現在保有している部品を棚卸して一覧化することから始めます。品番・品名・仕様・保管場所・在庫数・発注先の6項目を最低限記録します。ExcelまたはA4ノートでも構いません。「何があるかを把握する」ことが第一歩で、この作業が完了してから適正在庫の設計に進みます。
- Q. 安全在庫はどのように計算しますか?
- 基本的な計算式は「安全在庫 = 安全係数 × 需要量の標準偏差 × √リードタイム」です。ただし多くの現場では過去の使用量データが少なく、この公式を厳密に適用するのは難しいです。実務的には「過去1年の最大月消費量 × リードタイム(月)」を安全在庫の目安とする方法が手軽で定着しやすいです。
- Q. 保全部品の過剰在庫を削減するにはどうすればよいですか?
- まずABC分析でCランク(低頻度・低コスト)の部品を特定し、取り寄せ対応に切り替えます。次に長期在庫(1年以上動きのない部品)を洗い出し、廃棄・返品・他工場への移管を検討します。過剰在庫は資金の固定化だけでなく、部品の劣化(ゴム類・油脂類など)にも直結するため、定期的な棚卸(半年ごと)が重要です。
- Q. 部品の調達先が廃業・生産終了になった場合はどう対応しますか?
- 重要部品については、代替品・汎用品・他メーカー品への置き換えを事前に検討しておくことが重要です。特に設備が古くなると純正部品の入手が困難になるため、同機能の汎用部品を定期的にサーチし、採用実績を記録しておきます。リードタイムが長い部品は、生産終了情報を入手したら多めに確保するバッファ購買も有効です。
- Q. 複数工場を持つ場合、部品在庫はどう一元管理しますか?
- 拠点間で共通の品番コード体系と部品マスタを設計し、システム上で全拠点の在庫をリアルタイムに参照できる状態にするのが理想です。まず品番コードの統一から着手し、在庫過多の拠点から不足拠点への横持ちを可能にするだけでも、全体の購買コストを削減できます。